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【核心】「海底断層」認定の課題露呈 志賀原発 西海岸の地形も重視を  2024年2月19日

【核心】「海底断層」認定の課題露呈 志賀原発 西海岸の地形も重視を
2024年2月19日 中日新聞

 

 能登半島地震では海底の断層帯が150キロにわたって連動したとされる。北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の再稼働に向けた審査会合が進む中、日本活断層学会会長の鈴木康弘名古屋大教授は海底断層の評価の難しさを指摘する。
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 -輪島市から珠洲市にかけての能登半島北部沿岸では、地震により最大約4メートルの隆起が観測された。
 あれは活断層がずれた時に起きる特徴的な地形。(断層の動きにより地盤が隆起することで)波によって平らに削られた岩礁が持ち上がって干上がる。
 今回は隆起していないが、志賀原発西側の海岸にもよく似た地形があり、過去に地震活動があったことを示している。原発の4キロ沖に長さ4キロの「兜岩沖断層」があるが、海岸を隆起させるには短すぎる。隆起は原発から9キロ北に位置する志賀町内の「富来川南岸断層」まで続くため、二つの断層がつながっている可能性も指摘されている。
 志賀原発は今回の震源断層も富来川南岸断層も対策上想定はしていたので、現状において大きな問題は確認されていないが、活断層については一般によく分かっていないことが多い。今回の知見を教訓に原子力規制庁にはさらに慎重な検討を望みたい。


-富来川南岸断層とみられる断層もずれたことが確認されている。
 今まで震源域からこれほど離れた断層がほぼ同時に動くということが確認された例はほとんどない。今回は数十センチしかずれていないので、(審査会合で地震の規模を考える上での連動とは異なり)付随的な活動である可能性が高いが、周辺では揺れによる激しい家屋被害が確認されている。志賀町の揺れがとくに大きくなった原因の一つである可能性もある。こうした事例も防災上は考慮しなければいけない。


 -能登半島地震を受けて志賀原発の再稼働までにどのような議論が必要か。
 今回の地震が提起した最大の課題は沿岸部の海底断層の認定の難しさだ。海域では通常(網目状に船を航行して行う)音波探査で断層の有無を調べるが、測線上のことしか分からず、また判断に曖昧さが残る場合も多い。
 陸上の活断層図は地形調査によって作成されるが、海域においては海底の地形調査が重視されてこなかった。そもそも沿岸海域の海底地形は日本では十分調査されてない。こうした状況は改める必要がある。
 また、志賀原発の西海岸にあるような隆起地形についても、形成された原因が十分に理解されず、原子力規制委員会もこれまで重視してこなかった。今回の地震で、沿岸に活断層があってそれが動いた時に何が起きるかを目の当たりにした。規制委は過去の審査を早急に見直すべきだ。
 海底の活断層は見えにくく、存在を証明するデータも得にくい場合がある。それでも活断層があると仮定しなければ説明できない地形的証拠があれば、積極的にあるものと見なすという精神が重要。現在の原子力安全規制のルールには「可能性が否定できないものは考慮する」と明記されている。その精神を厳守すべきである。


 -志賀原発能登半島に立地しているリスクは。
 能登半島という地域性を見直す必要がある。「志賀原発はあれだけの地震があったのに大丈夫だった」と言う人がいるが、今回は主要な震源断層から30キロも離れていたのだから(揺れで建屋などが)壊れないのは当たり前。それでも多少なりとも被害が生じたことを無視せず、それは問題がなかったかどうかの検証を待ちたい。
 そもそも能登半島がこれほど大きな地震に見舞われる地域だと認識されていただろうか。沿岸の断層は今回の震源断層以外にも数多い。原発推進においては経済的な判断が重視されるが、能登半島地震リスクに関する認識を改め、緊張感をもって規制委は原発の安全性を説明してほしい。 (聞き手・高岡涼子)

新たな知見取り入れ対策
北陸電力が強調
 北陸電力は、海底の断層について「今後、国や研究機関の詳細な調査で明らかになる知見を取り入れ、安全対策をしっかりしていく」と強調した。
 震源から離れた富来川南岸断層が地震によってずれた可能性についても「現地で調査を行っており、これまでの評価と一致しているか確認する」とした。


 すずき・やすひろ 1961年生まれ。愛知県岡崎市出身。東京大大学院修了。2004年から名古屋大教授。22年から日本活断層学会会長。専門は変動地形学、災害地理学。