能登地震の志賀原発被害、泊に課題 規制委が対策追加検討 審査に影響も
2024/2/1 北海道新聞
能登半島地震により北陸電力志賀原発(石川県志賀町、停止中)で相次いだトラブルは、泊原発(後志管内泊村)の再稼働を目指す北海道電力にも重い課題を突きつけた。志賀原発では変圧器の破損で外部電源の一部を喪失。震源となった活断層の規模は北陸電の想定を大きく超えていたとみられている。原子力規制委員会は、今回の地震で新知見が得られれば、他の原発に対策を求めることも検討しており、北電も「必要があれば安全向上につなげたい」とする。ただ、新知見確定には年単位の時間がかかる見通しで、反映時期や内容は不透明だ。
1月1日の地震で志賀町は最大震度7、志賀原発では1号機地下で震度5強を観測した。1、2号機の変圧器の配管などが破損し、外部電源5系統のうち2系統が不通となった。現在は規制委の再稼働に向けた審査で停止中だが、保管する1657体の核燃料を冷却する必要があり、北陸電は別の系統に切り替えて電源を確保した。外部への放射能漏れはないという。
同様に停止中の泊原発1~3号機でも核燃料1744体がプールに保管されている。泊原発では2011年の東京電力福島第1原発事故後、電源を多重化してきた。3系統ある外部電源はそれぞれ1~3号機につながり、一部系統が不通になれば切り替えて対応する。ディーゼル発電機などの非常用電源も備え、外部電源がなくなっても7日間対応できるという。北電は「変圧器が損傷しても、直接発電所の安全性に影響を及ぼさない」とする。
■耐震強化議論に
ただ、原発敷地内の設備破損で電源を一部失った志賀原発の事態に、規制委からは「想定外だ」との声が上がる。原発の新規制基準では、鉄塔の倒壊などで外部から送電できなくなるリスクを踏まえ、電源は原発敷地内で確保するよう求めているからだ。規制委は北陸電に原因究明を要求。変圧器は特別な耐震性を求められておらず、震度5強の揺れで破損したことから、今後、耐震強化の議論が進む可能性がある。
今回の地震では能登半島北部の複数の活断層が連動し、約150キロにわたって動いたとみられている。北陸電は規制委の審査で活断層を96キロとしており、今後、再評価を迫られそうだ。
泊原発周辺でも長大な活断層の存在が指摘されている。東洋大の渡辺満久教授(変動地形学)らは、積丹半島北西沖に約70キロの海底活断層があり、マグニチュード(M)7・5以上の地震を起こすと指摘。北電は海上音波探査などから「活断層は認められない」としてきたが、規制委から「活断層の存在を否定しきれない」との指摘を受け、22・6キロの「孤立した短い活断層」があると仮定。その上で、原発の耐震設計の目安となる揺れの大きさ「基準地震動」を計算し、昨年6月に規制委から了承を得た。
■活断層再評価を
ただ、専門家からは「北電は活断層を過小評価している」との声が残る。小野有五・北大名誉教授(自然地理学)は、渡辺氏が指摘する約70キロの海底活断層を想定すべきだと主張。「今回の地震が示すように、安全側に立った評価が何より重要だ」と訴える。
規制委の山中伸介委員長は1月中旬の会見で、今回の地震が他の原発に与える影響について「新知見の内容次第だが、反映させることも検討したい」と述べた。規制委は福島事故の教訓を踏まえ、既存原発にも最新の知見に基づいた安全対策を求め、対策完了まで運転停止などを命じられる「バックフィット制度」を導入している。山中氏は新知見の確定には年単位の時間がかかるとしており、泊原発の審査に直接影響を及ぼす可能性は低いが、仮に審査に合格しても追加の安全対策を迫られる可能性はある。
北電の斎藤晋社長は1月31日の会見で、泊原発の対応について「適用すべきものは幅広く取り入れ、安全向上につなげたい」と述べた。必要があればバックフィットを待たず、自ら安全対策を打ち出す方針だが、時期は未定だ。
今回、志賀原発では1~3メートルの津波が到達し、地面が一部隆起する現象も起きた。小野氏は「今回の地震を教訓に規制委は他の原発を含め、抜本的に審査を見直すべきだ」と話す。(権藤泉、堀田昭一、山田一輝)