国と地方が「主従関係」だったらコロナ禍を乗り越えられたか? 保坂展人・世田谷区長が懸念を示す改正法案
2024年4月11日 東京新聞
岸田政権は、国と地方の関係を「主と従」に戻す恐れのある地方自治法改正案について、今国会での成立を目指している。「地域主権主義」に根差した政治や行政を目指す「ローカル・イニシアティブ・ネットワーク」(LIN-Net)の世話人を務める東京都世田谷区の保坂展人区長は「統制型の上意下達の国家、統治機構に変える考え方は危機的だ」と、改正案の内容に強い懸念を示している。(関口克己、山口哲人)
「ローカル・イニシアティブ・ネットワーク」(LIN-Net) 2022年12月、東京都世田谷区の保坂展人区長、杉並区の岸本聡子区長、多摩市の阿部裕行市長、政治学者の中島岳志氏らを世話人として発足。政治分野のジェンダー平等を目指す「FIFTYS PROJECT(フィフティーズ プロジェクト)」の能條(のうじょう)桃子代表も世話人となっている。草の根からの政治や行政の実践を働きかける緩やかなネットワークで、街づくりや気候変動、多様性などの視点から幅広く地域主権を話し合う。地方議員や市民ら26都道府県の約300人が賛同人に名を連ねる。
◆非常事態に国が自治体を指示
改正案は、政府が3月1日に閣議決定し、国会に提出した。現在の国の指示権は、災害対策基本法や感染症法など、個別の法律に規定があれば発動が可能となっている。地方自治法改正案では、大規模災害や感染症のまん延など国民に重大な影響を及ぼす非常事態で、個別法に規定がなくても、生命保護に必要な措置の実施を国が自治体に指示できるようにする。
日本弁護士連合会(日弁連)は、国と地方の関係を「上下・主従」から「対等・協力」に改めた地方分権改革に逆行するとして、法案に反対する会長声明を発表した。政府は、地方制度調査会が現行法について「個別法の規定で想定されていない事態が生じた場合、国は自治体に指示ができない」と問題視した答申内容を基に、法改正の必要性を主張している。
◆「コロナ禍では国が自治体に追従」
保坂氏は「国に補充的な指示を出せる権能があったら、コロナ禍を乗り越えられたのか」と首をかしげる。新型コロナウイルスの流行初期、国は無症状の国民へのPCR検査に慎重だった。世田谷区は積極的な検査のための態勢を確保。国もその後、方針転換した。
保坂氏は「自治体が一歩先んじ、国も追認し、知恵を出し合ったのがコロナ対策だった。混乱時に国が常に正しい判断をするとは限らない」と振り返り、「対等・協力」となったはずの地方分権の原則が、中央集権的な体制に逆戻りすると危機感を抱く。
保坂氏は、岸田政権の現状について「次期戦闘機の輸出解禁のような重要な問題が、十分に議論されないまま進んでいる。自民党派閥の裏金事件も真相が見えない。この体質が国民の政治への失望を生み出している」と指摘。「情報を開示し、住民が参加するボトムアップの民主主義を再構築したい」と語る。