全域「不適地」佐賀・玄海町で文献調査 NUMOや国、候補地拡大狙う2024/6/10 北海道新聞佐賀県玄海町で10日に始まった原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査。玄海町は全域が国の科学的特性マップで不適地に区分され、首長自身も最終処分場誘致に反対を明言している。専門家は、最終処分地になる可能性が低いにもかかわらず、国などが玄海町で調査に踏み切った背景として、原発が所在し、原子力政策への反発が少ない同町の動きを呼び水に調査地拡大を狙っているとみる。「避けるべき場所の基準に当たらなければ概要調査に進むことになっていく」。原子力発電環境整備機構(NUMO)技術部の兵藤英明部長は10日の記者会見でこう明言した。玄海町は科学的特性マップでは、全域の地下に鉱物資源である石炭が分布するとされ、将来掘削の可能性がある。しかし、NUMOは既存の文献で炭田が確認されたのは町南部の一部と説明。「炭田ではない場所が確認されうる」として調査実施に踏み切った。NUMOの事業計画によると、玄海町の文献調査費用は、現地事務所の家賃などを除き、2024、25両年で少なくとも4億6500万円以上。町が手続きをすれば国から2年間で最大約20億円の交付金も支給される。これらの原資は電気料金で、科学的に全域が不適地の可能性がある同町での調査実施の是非には厳しい目が向けられる。それでもNUMOや国が調査を実施したのは、処分候補地拡大のためだ。既に処分地を決めたフィンランドでは10地域程度から選考。一方、国内では07年の高知県東洋町や23年の長崎県対馬市のように反対活動が起こるなど首長の政治的リスクは大きく、調査のハードルは高い。東洋大の中沢高師教授(環境社会学)によると、原発立地地域など原発や関連施設の設置で財政や雇用で恩恵を受け、放射性廃棄物処分場に対する反対が起きづらい地域は「原子力オアシス」と呼ばれる。玄海町での調査実施は他の原発立地自治体に対する呼び水となるといい、調査実施自治体が増えれば立地自治体以外からも手が上がる可能性があるという。中沢教授は「現行制度では市町村長と知事のいずれかが反対すれば概要調査に進めない。ハードルが高いからこそ、少しでも選択肢を増やしておきたいのだろう」と話す。