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心のたねを言の葉として

霞む最終処分(15)第2部 変わりゆく古里 地権者会で団体交渉 自分の土地取り戻す  2024/01/22

霞む最終処分(15)第2部 変わりゆく古里 地権者会で団体交渉 自分の土地取り戻す
2024/01/22 福島民報

 

 大熊、双葉両町の地権者有志でつくる「30年中間貯蔵施設地権者会」顧問の門馬幸治(69)=相馬市に避難=は中間貯蔵施設の整備に関する住民説明会で、環境省の具体性に欠ける説明に不信感を覚えた。2014(平成26)年12月15日、大熊町は「苦渋の決断」ながら中間貯蔵施設の建設受け入れ容認を表明した。その2日後、住民が団結して条件に関する交渉を進めるため地権者会が発足し、門馬は初代会長に就いた。

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 地権者会は「除染廃棄物の30年以内の県外最終処分」「東京電力福島第1原発事故前の基準での土地価格の算出」など5項目の実現を目指し、活動を続けている。団体交渉は、これまでに40回以上を数える。中間貯蔵施設の在り方を考えるシンポジウム、法律や土地の専門家を交えた勉強会なども開いてきた。発足時は37人だった会員は、今では約100人となった。


 国は当初、中間貯蔵施設の用地約1600ヘクタールを全て買い上げ国有化する方針だったが、土地を手放したくないとの声を受け、所有権を住民に残したまま使用する「地上権」を設けた。土地価格について、環境省は「将来的な地価回復の状況を見据え、不動産鑑定士らが算定し適正に決めている」としている。だが、門馬は原発事故前の常磐自動車道整備時の5分の1程度の価格で、地上権賃借料はさらに低いのが実態だとして、「十分な補償とは言えない」と憤る。

 門馬から地権者会の2代目会長を引き継いだ大熊町の門馬好春(66)=東京都に避難=は「現状では地権者を蚊帳の外にした補償だ。国は『自分の土地に中間貯蔵施設を置け』と言われた人の思いをくみ取るべきだ」と指摘する。


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 門馬幸治は大熊町夫沢の自宅敷地約2ヘクタールのうち、1.2ヘクタール余は国に売却した。残りの宅地や田んぼなどは地上権を設定している。法律に基づき2045年に返還された場合、自身は90歳を超える。それでも全てを売らなかったのには理由がある。「必ず大熊に帰り、ここで農業をする」という強い信念を表すためだ。子どもたちにも、その思いを伝え続けている。

 国と交わした地上権の契約書には「土地を原状に復した上で、返還する」と明記されている。原状回復の大前提である除染廃棄物の県外搬出に必要な最終処分場の選定は、白紙のままだ。政府が福島第1原発の処理水海洋放出を決定した際、門馬は「漁業者の理解が得られていない中での強行は約束と違う」と受け止めた。県外最終処分は法に定められているものの、同様に反故(ほご)にされ古里が最終処分地になるのではないかとの疑念が消えない。

 「処分場が簡単に決まらないのは分かっている。でも、自分の土地を取り戻したいんだ」。霧中の行く末に光を差すため、諦めることはできない。(敬称略)