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心のたねを言の葉として

2020年ごろの安倍政権

2020年ごろの安倍政権

                         関川宗英

 

 

 山口敬之は、2016年6月、『総理』を出版している。出版社は幻冬舎、以下はその本のコピーである。

 

 そのとき安倍は、麻生は、菅は――綿密な取材で生々しく再現されるそれぞれの決断。迫真のリアリティで描く、政権中枢の人間ドラマ。

 

 『総理』の出版は、参議院選挙の直前だった。




 安倍晋三幻冬舎といえば、2012年に出された『約束の日 安倍晋三試論』(小川榮太郎)が思い出される。第二次安倍内閣が生まれる直前に出版された本だ。安倍首相の地元の政治団体が大量に購入したと話題になった。

 「自民党山口県第4選挙区支部」は2013年1月24日、紀伊國屋書店新宿本店で『約束の日』2000冊を315万円で買っている。これは政治資金収支報告書に添付された領収書でわかる。また、安倍首相の東京の政治団体「晋和会」の2012年の政治資金収支報告書からは、例年になく書籍代が760万円を超えていることが確認できる。

 この大量買いのせいなのか、『約束の日』は紀伊國屋書店丸善書店、リブロなど都内有力書店で売り上げ1位となった。今度はそれを、幻冬舎がニュースとして振りまく。安倍晋三幻冬舎見城徹社長の親密さは有名だそうだが、2012年のベストセラー『約束の日』誕生にはこのような裏話があった。

 2016年の『総理』出版の際にも、参院選前の話題づくりのために同じような工作があったかもしれない。

 

 2018年1月30日、衆院予算委で当時の安倍首相は、山口敬之との関係を問われ、「週刊誌報道を基に質問するな」と色をなして牽制した後、「私の番記者だったから取材を受けたことはある。それ以上でも以下でもない」と答弁している。

 しかし、山口は安倍晋三に最も近い記者と言われ、テレビ朝日、フジテレビなどのテレビ番組やラジオ等に出演して安倍政権の露骨な提灯持ちを繰り返した。山口敬之のようなライターは、メディアを支配しプロパガンダを推進するためになくてはならない存在だったに違いない。

 

 ここで一つ気になるのが、準強姦容疑で書類送検されていたその渦中で、『総理』が出版されていることだ。『総理』出版後に、山口敬之が起訴となれば、政権のダメージは大きかっただろう。

 しかし時代の波は安倍晋三サイドにあった。それを見透かしていたかのように、安倍晋三は政局を自分のものにしていく。山口敬之の不起訴処分もシナリオ通りの展開だったのか。

 

 2016年7月10日の参議院選挙で自民党は圧勝、改憲勢力は三分の二を超えた。

 

 参院選後の2016年7月22日、東京地方検察庁は山口敬之について「嫌疑不十分で不起訴処分」と発表した。

 その後2017年5月、伊藤詩織さんは検察審査会に不服申し立てをするが、同年9月、検察審査会は「不起訴相当」を議決している。

 

 安倍政権時、地検の「不起訴処分」、検察審査会の「不起訴相当」は他にもある。甘利明の現金授受問題、小渕優子の政治資金事件も「不起訴」となっており、真相は解明されないままだ。

 

 司法への官邸の関与は明らかだ。2020年、当時の黒川東京高検検事長検事総長にするために、安倍晋三内閣は国家公務員法を変えて、黒川検事長の定年延長を図ろうとしたことは記憶に新しい。

 

 2020年当時、時の政権の意向に沿って、司法も動いている現実があった。