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心のたねを言の葉として

小池百合子東京都知事の学歴詐称問題

小池百合子東京都知事学歴詐称問題

黒木 亮

JBpress

 

 小池百合子東京都知事が、自己の学歴詐称疑惑を隠蔽するため、2020年6月9日に日本外国特派員協会(FCCJ)で開かれた郷原信郎弁護士と筆者の記者会見にぶつける形で、カイロ大学の声明文を“自作自演”したことが、元側近の小島敏郎氏が「文藝春秋」に寄稿した手記によって暴露された。
 小池氏は、筆者らの会見前日に元ジャーナリストでやはり当時側近だったA氏に対し、「明日の4時から郷原と黒木亮が外国記者クラブで記者会見とのこと。その前に全部済ませます」とメールしていた。
 しかし、あの会見に関する小池氏の工作は、それだけではなかったようだ。


 ◆ 直前に公開された声明文をしっかり印刷して手元に
 FCCJでの会見で、質疑応答セッションが始まると、日本在住のあるアラブ人ジャーナリストが真っ先に手を挙げ、事前にプリントアウトしたカイロ大学の声明文の全文を時間をかけて読み上げ、「この声明文についてどう思うか?」と訊いてきたのだ。
 声明文がエジプト大使館のフェイスブックにアップされたのが午後2時9分で、郷原氏と筆者の記者会見が始まったのは午後4時である。声明文のことは外部に特に告知されていなかったので、小池氏側から知らされない限り、そのような早いタイミングで声明に気づき、それをプリントアウトし、FCCJまで移動し、満を持して質問するということはまず考えられない。
 さらにそのアラブ人ジャーナリストは、質問でもないのに、わざわざ「小池氏には20年以上アラビア語で取材しているが、彼女のアラビア語は非常に上手く、発音もよく、アブダビで取材を受けたときは、30秒の予定に対し、5分間もアラビア語で話し続けた」と褒めたたえた。
 これがまったく事実に反することは、筆者やイスラム思想研究者でアラビア語通訳の飯山陽氏がチェックした小池氏のインタビュー動画を見れば一目瞭然で、飯山氏は「小池氏のアラビア語は2歳児レベル」と断じている。


 ◆ 助太刀を試みるアラビア語通訳者
 筆者は2016年から小池氏の学歴詐称疑惑を調査し、各種の記事で明らかにしてきたが、その過程で、小池氏を強引に擁護する中東・アラブ関係者に会ってきた。
 たとえば、筆者は、ベテランのエジプト人ジャーナリストと小池氏のインタビュー動画を見て、「小池氏のアラビア語は日本で6ヶ月程度やったレベルで、到底大学教育に耐えられない」と記事にした。するとあるアラビア語通訳者が、そうした評価は「幼稚、かつ杜撰」で、小池氏は「アラビア語を話せるというレベルは遥かに超えて」おり、「イントネーションはきわめて正しく」「アラブ人が感動」するものであると反論してきた。
 しかしこの通訳者は、小池氏関連の通訳を引き受け、金を稼いでいる「業者」で、過去、自身のツイッターで「小池閣下の当選を祈願して○○断ちをした」「閣下のアラビア語に疑問を呈する輩に、通訳者として閣下のアラビア語は素晴らしいと言ったら、けっ、おぼえていやがれと言って退散した」といったツイートをしていた人物だ。
 もし小池氏が本当に感動するほどのアラビア語ができるなら、事前のリハーサルなしできちんと正則アラビア語を喋っている動画をとうの昔に公開しているだろうし、都議会で上田令子都議(江戸川選挙区)から「カイロ大学入学から卒業までの経緯を正則アラビア語でこの場で話してくれれば、出し渋っている(卒業)証明書よりも明白に卒業を証明できる」と求められたのに対し、答弁拒否をすることもなかったはずだ。
 小池氏のアラビア語がお粗末であることは、すでに小池氏自身のこれまでの行動によって証明されている。


 ◆ 恩を売り、中東・アラブ関係者を自分の持ち駒にする
 嘘をついてでも小池氏を擁護し、小池氏の歓心を買おうとする中東・アラブ関係者がいるのは、小池氏が彼らに恩を売っているからだ。
 筆者が最近聞いた話では、西日本の大学で客員教授を務めていたカイロ大学出身のエジプト人が、任期満了で職を失うことになった際、ほとんど泣きつくような状態で、小池氏に直接連絡を取ったところ、「わたしに任せて」とすぐに関東のある私大に連絡し、教授職を確保したので、エジプト人教授はそれを大いに恩義に感じていると、筆者の友人に話したという。
 小池氏は、自分にとって利用価値がないと思った人間には、尊大で無礼な振る舞いをすることで知られており、筆者の知人にも不快な思いをさせられた人たちは少なくない。しかし、自分を助けてくれそうな中東・アラブ関係者には、恩を売って持ち駒にしている。権力者であれば、上記のような職の斡旋、ジャーナリストには日本の有力政治家へのインタビューの仲介、通訳者には通訳の仕事の紹介、日本政府からの研究費獲得の後押し、日本政府からの叙勲への後押し等、色々なことができる。
 厄介なのは、アラビア語や中東関係は一般の日本人には馴染みのない分野で、小池氏の息のかかった人物が嘘をついても見分けることができず、ころっと騙されてしまうことだ。
 特に彼らはアラブ流で大きく出てくる、すなわち嘘をつくときは大きな嘘をつくので、そうした文化に馴染みがない日本人は戸惑う。これの最たるものが、首席でカイロ大学を卒業したという小池氏の嘘で、さすがにこれは2020年3月の都議会で、自民党の三宅正彦都議(島部選挙区)が小池氏を問い詰め、「それでは首席ではなかったということで確定させて頂きます」と引導を渡した。


 ◆ 小池氏が、頻繁にカイロに足を運び、カイロ大学や日本語学科と親密な関係を作ってきた第一の目的は、今回のように学歴詐称疑惑が取りざたされたとき、助けてもらうためだろう。事実、サーレハ氏は、小池氏の後ろ盾となって、日本のメディア対応を行ってきた。


 ◆ 小島敏郎氏と日本の大手メディアに期待したいこと
 小島敏郎氏は、4月17日(水)にFCCJでの会見を予定している。
 小池氏の手の内を知り、弁護士の資格も持つ小島氏の会見は、郷原氏と筆者の会見以上に小池氏にとって脅威だろう。同氏は、東大法学部時代に司法試験の他、国家公務員上級試験(法律職)に3番で合格し、大蔵省(現・財務省)にも勧誘されたが、環境行政を志し、できて間もない環境庁(現・環境省)に入ったという気骨のある人物だ。FCCJでの会見では、小池氏の持ち駒の人物などが、会見を混乱させようとする可能性もあるので、十分注意してもらいたいと思う。
 本件は、都知事学歴詐称という大きな問題であり、告発者の北原百代氏は手紙、小島氏はメールという物証を持っているにもかかわらず、文藝春秋以外の大手メディア(テレビ局、新聞社)の動きはきわめて鈍い。
 小池氏や小島氏の会見などは多少報道したものの、突っ込んだ内容でもなく、しかもずいぶん小池氏に忖度している。今まであまり取材をしてこなかったので、報道できる材料が少ないとか、莫大な広告費を払ってくれる東京都のトップに嫌われたくないといった理由があるのかもしれないが、本件をきちんと報道しなければ、自分たち自身の信頼を傷つけ、読者・視聴者離れに拍車をかけることを肝に銘じるべきだ。


 ◆ 小池氏の学歴詐称問題は、石井妙子氏の『女帝 小池百合子』をはじめとして、数多くの人々が調査をしたり、都議会で質問をしたりして、疑問点がかなり明確に絞られてきている。大手メディアには、それを記者会見などで、小池氏にしっかりと質問してもらいたい(主要な疑問点については今週月曜日に発表した〈告発者たちとカイロ大学の言い分は、なぜ真っ向から食い違うのか?〉に列挙した)。
 静岡県川勝平太知事に対しては、新聞社の若手記者らが厳しい質問を浴びせ、それが辞任の一つの原因になった。東京のメディアにも、是非頑張ってほしい。
 特に、小島氏が告発したカイロ大学の声明文に関し、伊東乾東大教授は〈「小池都知事学歴詐称問題」を別の角度で検証、大学の公文書とは何なのか〉(JBpress 2024年4月15日記事)の中で、カイロ大学の声明文は、形式や書かれている内容が基本メチャクチャなパチモンで、日本国内で、カイロはおろか国際的な大学実務とは無関係な人がものすごい急ピッチで捏造した「日本語の作文」を流布した可能性がきわめて高いと指摘している。これは重大な指摘であり、メディアには特にこの点を追及してもらいたいと思う。


 ◆ 本件で最も重要なこと
 疑惑解消のために、一番重要なことは、小池氏が、学業実態があったことを証明することだ。重大な疑義が呈されているのに、「卒業証書はある。カイロ大学も認めている」で逃げ切ろうとするのではまったくお話にならない。どうやって証明するかは小池氏が考えることで、それができなければ「クロ」ということだ。