ippo2011

心のたねを言の葉として

『火垂るの墓』あとがき 野坂昭如

「君たちの生まれる前、戦争があった。たくさんの人が死んだ。そして、日本は、もう二度と戦争をしないと決めた。だが今、戦争を迎え入れつつある。いつ戦争に巻き込まれてもおかしくない状態なのだ。君たちはこれをどう考える。君たちの周りには食べ物が溢れている。けれど、そのほとんどが、輸入の産物。戦争が起きれば、食べ物は入ってこなくなる。そうなれば、たちまち日本国中、餓死して当然。ぼくが子供の頃、この国は農業が盛んだった。身近に、作る人の努力を感じることができた。物を食べる時、作った人や、その収穫物に感謝する気持ちがあったし、大地の恩、水、天の恵みを有難く思っていた。『いただきます』という言葉には、そういった気持ち、すべてが込められていた。食べ物を大事にしてください。戦争中、そして戦後、餓えて死ぬ人を何人も見た。戦争は嫌だ。戦争は決してしてはいけない。君たちに同じ思いをさせたくいない。君たちが大人になる頃、戦争を経験したぼくたちはもういないだろう。この本を読んで、戦争を考えて下さい。戦争について、語りあって下さい。語り合うことが大事です。そして、ここに書かれなかった戦争の真実を、君たちの力で自分のものにしてください」(『火垂るの墓』あとがき 野坂昭如さん、1930年10月10日 - 2015年12月9日、享年85)