「ただただ命が失われている」最新 ガザ地区で日本人が見たものとは?
2023/11/6 NHK国際ニュースナビ
「戦争は本当に何も生み出しません。ただただ命が失われています」
国際的なNGO「国境なき医師団」のスタッフとして、衝突が続くガザ地区に3週間あまりとどまっていた白根麻衣子さん。
イスラエル軍による空爆で死者が増え続けるガザ地区の現状を、こう訴えました。5日深夜、日本に帰国した白根さんの思いとは。
(国際部記者 吉元明訓)
ガザから出て感じることは?
今ガザから退避をして思うことは、外に出たからこそ、悲惨で人の命が簡単に奪われてしまう紛争が続いていることに更なる怒りを感じています。中にいる時はもう自分の目の前で起きていることで精一杯で、なかなかそういったことを考えることはなかったのですが、ガザから退避をして客観的にテレビで流れる映像を見ると、この無差別な暴力でたくさんの命が失われるのを目にするたびに大きな怒りを感じています。
今回、このような形で退避することになったのはとても心残りがあります。この紛争があることによって、私たちが通常していた活動が全くできなくなってしまっているので、本当に心苦しいです。特にこの紛争が始まってからの3週間、私たちは現地スタッフに命をつないでもらったと思っています。
その現地スタッフたちと一緒に働けなくなってしまったこと。現地スタッフは命をかけて、今も患者の治療に当たっているので、その面では本当に心残りがあると思っています。
避難生活で心の支えになったのは?
精神面では、やはり家族の支えが大きかったと思います。この3週間、本当に家族には感謝をしていて、不安な中、連絡できる時はなるべく連絡をしていました。
母は一度も弱音をはかず「あなたなら大丈夫だから信じて待ってる」と言い続けてくれました。友人も「信じて待ってるよ」ということを言い続けてくれて、大きな心の支えになりました。
また、現地のスタッフがこういった状況下でも、前を向いてできることをやっていて、そういった勇敢な姿を日々日々目にすると、私も弱くなっていてはいけないなと思いました。
「ただただ命が失われていく・・・」
この3週間、私が見てきたものは本当に悲惨であってはならないこと、誰も経験すべきでないと心から思っています。私は今はもう退避しましたが、今この瞬間もガザの中にいる人たちは日々「命が途絶えてしまうのではないか」という恐怖の中、そして「いつ食べ物がなくなってしまうのだろう」という極限の中、生活しています。
戦争というのは、本当に何も生み出さない。ただただ命が失われていて、あってはならないことだということを常に忘れず持っていてほしいなと思います。どんな国であっても、戦争が起きると当たり前だった日常が一瞬で消えてしまって、当たり前だった大切な人との生活が一瞬でできなくなってしまう。そういったことがどの国でも起こり得るということを、個人レベルで常に思ってほしいと思います。
こういった無差別な暴力というのは本当に間違っていて、即時停戦を国際社会が声を上げていくことが本当に大切だと思っています。
パレスチナ人の同僚が一番恐れているのは「国際社会がガザの中で起きていることを知らずに、自分たちのことを忘れてしまうのではないか」ということです。
退避はしましたが、私は私にできることは何でもやっていきたいと思います。
白根さんから感じた“思い”
11月5日、3連休最後の日曜日の深夜。羽田空港の到着ロビーから出てきた白根さんは、出迎えに来ていた国境なき医師団の関係者を見つけると安どの表情を浮かべ、抱き合いながら無事を喜んでいました。
初めて白根さんに話を聞いたのは10月18日。白根さんたちがガザ地区南部に避難して5日後のことでした。通信状況が悪く、自身も厳しい環境にいながら、電話越しの白根さんの言葉からは「日々、女性や子どもたち、一般の市民が犠牲になっているガザの現実を日本の人たちに知ってほしい」という思いがひしひしと伝わってきました。
白根さん
「飛行機の窓の外から見る東京はきらきらしていてきれいで、同じ空の下なのに、なぜガザとこんなに違うのだろうと考えていました。ガザの夜は電気もなく真っ暗で、見える光は、空爆やロケット弾だけでした」