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心のたねを言の葉として

六ケ所村 再処理裁判 海渡雄一弁護士 2023/9/30

六ケ所村 再処理裁判

 

海渡雄一弁護士
2023/9/30

 

 
青森地裁で30年続く再処理裁判は、最終ピッチに入り、本格的な論争に突入しました。
 昨日9月29日は、青森地裁で、反核燃一万人訴訟・六ケ所再処理施設の指定取消の裁判の第123回口頭弁論でした。この裁判は、いろいろな事情と原子力規制委員会による規制審査が遅れに遅れたため、1993年12月の提訴から30年を経過し、いま、本格的な裁判が始まっています。
 新しい裁判長が着任され、原告と被告の双方に裁判の争点を明らかにする、弁論更新をプレゼン方式で行うことを求めました。これを受け、昨日は午後いっぱいをかけて、約三時間のパワーポイントを用いた口頭弁論が行われました。この裁判で、国が口頭でプレゼンを行ったのは、30年間の裁判の歴史の中で、昨日が初めてでした。
 原告側からは、浅石紘爾弁護士が訴訟の経緯と主要な争点を説明し、伊東良徳弁護士が、再処理施設が高いレベルの放射性物資を液体状で取り扱い、原発と比べてけた違いの危険性があること、三沢基地が近くにあり、軍用機の訓練飛行回数が著しく多いにもかかわらず、全国平均の飛行回数の基準を用い、小型の軍用機の衝突回数を10分の1とするなどの基準の恣意的な適用を重ね、明らかに墜落事故の確率が対策を講じるべきレベルを超えているにもかかわらず、航空機の衝突についての防護が図られていないことを厳しく批判しました。
 私からは、本件再処理施設は、断層の評価、想定すべき地震の想定、基準地震動の策定、耐震設計の評価、使用前検査の成立性の各段階において、看過することのできない深刻な誤りを重ねていることを説明しました。この点は、のちにもう少し詳しく説明します。
 中野宏典弁護士から、規制審査と司法判断の枠組みと火山に関する安全審査について説明しました。六ケ所の再処理施設の敷地には十和田火山の火砕流の到達が確認されているので、明らかに立地不適であるのに、この点について国は、規制基準・火山ガイドを捻じ曲げ、VEI6レベルの、日本全体では1000年に一回程度の確率で起きている事象を「社会通念」を根拠に無視し、立地を認めてしまったことを厳しく批判しました。
 この再処理施設の耐震設計は、375Galが原設計であり、2006年新耐震設計審査指針にもとづいて2007年に450Galに引き上げられました。この時点で、多くの機器において耐震設計の余裕は1割から2割しかないという耐震性の確保は厳しい状況が確認されていました。
 2020年の変更許可における基準地震動は700Galに引き上げられました。この基準地震動は大幅な過小評価ですが、六ヶ所再処理施設は耐震補強が不可能な箇所が多数に及び、700Galの地震動にも耐えられないことは明らかです。
 他方で、下北半島の太平洋側の沖の海底には、高さ200メートル以上の崖があり、100km以上つづくこの崖は大陸棚外縁断層の活動によってつくられたものです。
 この裁判では、この断層の活動性が長く問題となってきました。さらに、大陸棚外縁断層は南の方で2つに分かれており,一方は陸側に乗り上げるかたちとなっています(六ヶ所撓曲)。日本原燃・国は出戸西方断層(11km)という地表に現れた断層の存在は認めています。しかし、出戸西方断層は、これらの大構造のごく一部の、小さな断層にすぎません。
 したがって、裁判で問題となっているのは大陸棚外延断層と六ケ所断層の2つの断層ということになります。
 大陸棚外延断層は東大出版会の「日本の活断層」という「権威」ある活断層マップに載っているものです(逆の例はたくさんあり、原発の近くの活断層は、このマップから消されてしまった例があります。)。この本に掲載されている活断層が、国や事業者から存在を否定されたケースは、今回を除いて聞いたことがありません。古くは、米倉東大教授、宮内崇裕千葉大学教授、近時には池田安隆奈良大学教授が、その活動性を認め、見解を明らかにしてきました。
 六ヶ所断層は渡辺満久教授が、海成段丘の傾きを地形の判読から発見したものです。
 そして、基準地震動が450ガルの時点で、もともと「耐震裕度」が10〜20パーセントほどしかなかった高放射性の溶液や地下の洞道などの耐震補強はまったくすすめられていません。この問題について、国は昨日提出された準備書面で、この問題は「基本設計」の問題ではないからという理由で中身のある反論は放棄しました。450ガル対応で設計された施設が、プロセスが放射性物質で汚染されているために、耐震補強の工事が不可能な状態にあるのであり、これで700ガルに耐えられるかどうかは、設計基準地震動の成立性に関わることであり、「基本設計」に関わる問題です。この点は、今後大きな問題として行かなければなりません。
 2007年に中越沖地震が発生し、解放基盤において2000ガルを超える地震を観測し、基準地震動は2300ガルに引き上げられました。この時、原子力安全保安院は、基準地震動の見直しを計画しましたが、電力会社の巻き返しによって後退し、それでも、施設の基礎版で680ガルには対応できることを全国の施設で確認することを求めました。このことを論議した際の、東電御前会議の資料があります。ここでは、井戸裁判長の判決で敗訴していた志賀原発の訴訟の控訴審で敗訴のリスクが指摘されていることも興味深いですが、「日本原燃六ケ所再処理施設:450Galで耐震バックチェック終了」「450Galに対してほとんど余裕のない機器が存在」「680Galの入力→レッドセル内の機器が要補強となるが、アクセス困難」「680Galへの対応は困難が予想される」などと指摘されています。再処理施設は基礎版680ガルに耐えられないことは明らかなのです。
 「日本の活断層」にも存在が認められている海底活断層や、多くの研究者が渡辺教授に賛同している六ヶ所断層の存在を日本原燃や国が必死になって否定するのは、これを認めた途端に、耐震補強の不可能な六ヶ所再処理施設の審査基準不適合が確定し、施設の廃止が確定してしまうためなのです。
 再処理施設の帰趨を決する、青森地裁反核燃一万人訴訟・再処理裁判に、全国からご注目とご支援をお願いします。