ippo2011

心のたねを言の葉として

船が水面にたゆたっている光景   ソロー

船が水面にたゆたっている光景   ソロー

 

 

 

 二人の男たちが乗ったスキッフ・ボートとこの近くですれ違ったが、そのボートは木々を映している水面にたゆたっている。空中に漂う羽毛のように、あるいは小枝から離れた葉が、ひっくり返りもせずに静かに水面に落ちつつあるかのように、動きを止めて、自然の法則に任せてかすかに漂っている。このように彼らがたゆたっている光景は、自然の哲学のなかで展開される美しさを、巧みに具現している。私たちの目には、鳥が空を飛び、魚が水中を泳ぐのと同じく、人間が船を漕ぎ進めることは芸術の域に達しているように思える。人間のあらゆる行動は、さらに高尚で崇高なものにすることができるはずだ、という点に思い至る。私たちは人生のすべての面で、芸術作品や自然に劣らない程度に美しく優雅にやりおおせることができるのではあるまいか。

                 (『コンコード川とメリマック川の一週間』ソロー 仙名 紀訳)