ippo2011

心のたねを言の葉として

「キンセン」       谷川俊太郎

「キンセン」       谷川俊太郎  

 

「キンセンに触れたのよ」

とおばあちゃんは繰り返す

「キンセンて何よ?」と私は訊く

おばあちゃんは答えない 

じゃなくて答えられない ぼけてるから

じゃなくて認知症だから

 

辞書を引いてみた 金銭じゃなくて琴線だった

こころの琴が鳴ったんだ 共鳴したんだ

いつ? どこで? 何が 誰が触れたの?

おばあちゃんは夢見るようにほほえむだけ

 

ひとりでご飯が食べられなくなっても

ここがどこだかわからなくなっても

自分の名前を忘れてしまっても

おばあちゃんの心は健在

 

私には見えないところで

いろんな人たちに会っている

きれいな景色を見ている

思い出の中の音楽を聴いている