ippo2011

心のたねを言の葉として

シオニズムの鉄条網

シオニズムの鉄条網


イスラエルのジャン=モイズ・ブレベレク氏が2009年、当時のイスラエル大統領、シモン・ペレスに宛てた書簡

ジャンさんの祖父は、ナチ収容所の一つであるトリブリンカ強制収容所で殺害された。

▼ご理解ください。私は子どものときからずっとこれまで絶滅収容所のサバイヴァ―(虐待や災害など、様々な原因から生じた傷を、心や身体に負っても、なんとか生き延びている人)らに囲まれて生きてきました。彼らから、腕に彫られた数字を見せられましたし、拷問を受けた話も聞かされてきました。耐え難いほどの悲しみを経験しましたし、悪夢も彼らと共にみました。
私は学びました。こうした犯罪は二度と起きてはならないということを、民族や宗教などによって他人を侮辱したり、基本的人権を他人から奪うといったことは、誰もけっしてはならないことを、そして同様に、誰もがきちんとした環境で生活を営み、家族のためによりよいものを望む権利を有しているということを。
大統領閣下、私は気がつきました。国際社会によって数えきれないほど決議があげられたにもかかわらず、1948年以降パレスチナ人が明白な不正義を破ってきたにもかかわらず、オスロ合意に希望があったにもかかわらず、そしてパレスチナ自治政府側がイスラエルに平和と安全のうちに権利を繰り返し承認してきたにもかかわらず、歴代のイスラエル政府の唯一の回答は、野蛮な暴力の行使、流血、投獄、恒常的な占領支配、入植、土地の没収でした。
大統領閣下、教えてください。自国民に向けられたロケット攻撃や、多くの無辜(むこ=罪のない)の人々に死をもたらす自爆攻撃から、ある国家が自衛をするということは正当なことなのでしょうか。私ならこう答えます。私の人間的な共感は、犠牲者の国籍を問いません、と。
それに対してあなたが導いておられるのは、ユダヤ人全体を代表しようとするのみならず、国家社会主義ナチス政権]の犠牲者の記憶を保持せよと主張している国家です。これは、私に衝撃を与えただけでなく、私には耐え難いことです。一方であなたは、私の最愛の人物の名前を、イスラエルの中心部にあるヤド・ヴァシェムに書き込んでおきつつ、イスラエル国家は、収容所に入れられていた私の家族の記憶を、シオニズムの鉄条網内に人質として囲い込んでいるのです。権威を標ぼうしているけれども、日々不正義を繰り返している国家の人質のために。
ですから、ユダヤ人の被った恐怖の証言者である私の祖父の名前を記念碑から削除することを大統領閣下にお願いいたします。祖父の名前がもう利用されないようにしたいのです。
(『ホロコーストからガザへ』サラ・ロイ著、青土社より抜粋)