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心のたねを言の葉として

[インタビュー]日本の市民が「処理汚染水放出中止」訴訟…「故意に災害招く」  2023/9/5

[インタビュー]日本の市民が「処理汚染水放出中止」訴訟…「故意に災害招く」

 2023/9/5

 

news.yahoo.co.jp

海渡雄一弁護士 「原発爆発は過失だが処理汚染水放出は故意 ロンドン条約国連海洋法条約違反を争う」

 「日本政府と東京電力による『二重の加害行為』を告発する訴訟としたい。原発爆発は東京電力と国の重大な『過失』によるとみられるが、処理汚染水は『故意』であり、災害に近い被害を与えるものだ。絶対に中止しなければならない」

 先月24日に始まった東京電力福島第一原発の汚染水放出の中止を求める訴訟が日本国内で8日に始まる。福島県宮城県などの地元漁民と住民100人あまりが、汚染水の放出の中止を求めて8日に福島地方裁判所に提訴する予定だ。

 訴訟の弁護団に属す海渡雄一弁護士(67)は先月29日、東京でハンギョレのインタビューに応じ、訴訟の争点と意味を説明した。韓国では「汚染水」、日本では「処理水」と呼んでいるが、海渡弁護士は「多核種除去設備(ALPS)で処理された汚染水」を意味する「処理汚染水」という用語を使っていると説明した。

-今月8日に処理汚染水の放出中止を求めて提訴する。

 「2021年4月にALPS処理された処理汚染水の海洋放出が公式に決定された。訴訟はその直後から2年ほど準備してきた。訴訟に参加したいという人は日本全国に大勢いるが、今回の訴訟は(2011年3月に)福島第一原発事故の被害を直接受けた漁業者と住民が参加する。原告は福島県宮城県茨城県岩手県、千葉県、東京都程度に限定される。彼らは原発事故に続き、処理汚染水放出の被害を受けることになった。

 日本政府と東電による『二重の加害行為』を告発する訴訟としたい。原発爆発は東電と国の重大な『過失』によるとみられるが、処理汚染水の放出は『故意』だ。訴訟には100人以上が参加すると予想される。8日の第1次訴訟に続き、第2次訴訟は10月末までに準備する計画だ」

-被告は原子力規制委員会東京電力だが。

 「原子力規制委員会は、処理汚染水放出運用などにかかる実施計画変更認可処分(5月10日)と、放出設備の使用前検査での合格処分(7月5日)を決定している。同委員会にはこの2つの決定の取り消しを請求する。放出を許可した処分を取り消してほしいという行政訴訟だ。東京電力には放出の中止を求める民事差し止め訴訟を起こす」

-中心争点は。

 「日本政府は処理汚染水の海洋放出によって漁業分野で被害が発生することを認めている。そして補償をすると明らかにしている。すなわち処理汚染水の放出は『災害』だということだ。これは日本の原子炉等規制法に定める『災害の防止上十分でないもの』に当たるため違法であると考える。

 住民については、将来健康上の被害を受ける可能性があるという不安が生じている。平穏な生活を送る権利が侵害されているのだ。漁業者は漁業で生活する権利が侵害される。また海洋汚染は被害があることを立証してからでは取り返しのつかない状況になるため、『予防原則』が適用される。危険な行為はひとまず中止しなければならないということだ。これは国連海洋法条約ロンドン条約にも定められている。このようなポイントを争点とすることになるだろう」

-「ロンドン条約」が本格的に扱われることになる。

 「ロンドン条約96年議定書によると、放射性物質の海洋投棄は全面的に禁止されている。日本の処理汚染水の放出は議定書違反の可能性がある。日本政府は、議定書が適用されるのは『船舶からの投棄』であり、今回の放出は船舶からの投棄ではないなどと主張する。だが議定書をよく読めば『プラットフォームその他の人工海洋構築物から海に故意に処分すること』も禁止対象に含まれている。海洋放出のために作った長さ1キロの海底トンネルは海洋構築物とみることができる。

 これまで、日本の処理汚染水放出がロンドン条約の対象なのかについては国際的な合意がなかった。この部分を裁判所で争うつもりだ。ロンドン条約が日本の裁判所で議論されるのは初めてだ。また国連海洋法条約にも重要な点がある。処理汚染水が害をもたらす恐れがある場合には、因果関係が証明されなくても処分してはならないとされているのだ。このような予防原則を積極的に訴訟の中で主張する予定だ」

-日本政府と東京電力は、国際原子力機関IAEA)の判断などを根拠に、処理汚染水の放出は安全だと主張している。

 「これまで東京電力のように放射性物質を故意に海に放出した事例はない。たとえ希釈したとしても放射性物質の総量は変わらない。ALPSで処理した汚染水にはトリチウム三重水素)だけでなくセシウム134、137、ストロンチウム90、ヨウ素129、炭素14などが含まれている。このような放射性物質は様々な生物の中で濃縮される可能性がある。

 安全性を語るためには、放出された処理汚染水が生物にどのように濃縮され、人間にどのような影響を与えるのか、その経路を把握しなければならない。日本政府と東京電力はこの部分を全く評価していない。IAEAは、日本政府の政策を推奨も支持もしないとレポートで明確に述べている。危険だということも立証されていないが、安全だということも確認されていない。IAEAもそのような評価をしたわけではない。だから安全とは言えない」


-日本政府は、福島第一原発では汚染水が毎日発生しており、これを保管するタンクが不足しているため、原発廃炉のためには放出やむなしと主張している。

 「東電はタンクを新たに作る土地がないと主張しているが、完全にうそだ。原発の隣には7、8号機の建設予定地だった空き地がある。そこに作ればいい。また、原発からデブリ(溶けた核燃料の残骸)を取り出し、30年後に廃炉が完了すると考えている専門家はいないと思う。

 汚染水の処理については、海への放出以外の方策がまともに検討されていないのも問題だ。長期陸上保管やモルタルで固化する方法など、環境への負担を減らす代案があった。日本政府はきちんと検討したと主張しているが、それを裏付ける資料がない」

東京電力に対する不信も大きい。

 「東電の大きな問題点は、重要な事実を隠す可能性があるということだ。24日から処理汚染水の放出がはじまっているが、今後30年以上その内容を正確に公開するのかは疑問だ。東電は福島第一原発メルトダウン炉心溶融)の事実を長期間隠蔽し、高濃度の汚染水が海に流出していたことも後になってから認めた。裁判でも主張するが、東電は2015年8月に社長名義で、処理汚染水の海への放出について『関係者(漁業関係者)の理解なしにはいかなる処分も行わない』と文書で約束しているが、結局守らなかった。

-訴訟の結果はどのようなものになると予測するか。

 「難しい質問だ。漁業関係者は補償がなければ(風評被害などで)生業の維持が難しくなるだろう。日本政府は800億円(約7228億ウォン)の予算を用意し、被害の賠償に乗り出そうとしている。これは大災害だ。それも過失ではなく故意に被害を与えるということだ。裁判所に良心があれば、このような行為は中止すべきだという判決を下すと思う。

 処理汚染水の放出に反対している韓国や中国だけでなく、マレーシアやフィリピンなどのアジアの国々、太平洋の島国にも大きな声をあげてもらいたい。今からでも遅くはない。例えば、裁判があと1年かかるとしても、処理汚染水の放出期間は30年以上あるため、30分の1を放出した時点で中止させることができる。間違ったことはやめさせなければならない」

-韓国の漁業関係者への被害も予想される。

 「韓国の漁業関係者も現実に受けた被害の賠償を東電に請求できると思う。被害を受けた人は国籍に関係なく要求できる。東電が無視すれば、現実に被害を受けたという事実を証明して損害賠償訴訟を起こすこともありうる。ただし韓国の漁業関係者だけが訴訟を起こせば、韓日の外交関係を悪化させる恐れがある。だからなるべくアジアの多くの国々や太平洋の島国などと共に訴訟ができるとよいと思う」

東京/キム・ソヨン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )