ippo2011

心のたねを言の葉として

甘粕正彦 カフス・ボタン

 甘粕が溥儀から贈物を受けたのも、この時期であった。溥儀は「自分はいま貧しくて、何の礼もできない。せめてこれを記念に」とカフス・ボタンをはずして甘粕に差出した。甘粕はとっさに「礼を受ける理由はない」と言い放って無造作に返そうとしたが、側近から「わが国では、貴人からの贈物を返すことはできない習慣です」とたしなめられて、受けとった。甘粕の同期生・麦田平雄は「追悼余録」の中に「甘粕がそのカフス・ボタンを私に示し、『心ないことをした』と語った」と書いている。

(『甘粕大尉』角田房子)