女性議員へのひぼう中傷 背景に何が
2024年11月30日 NHK
11月、発表された大臣政務官の人事。その直後、政務官に就任した女性議員たちに対するSNSの投稿が急増しました。
目立ったのは「女性を出世させる逆差別」などといった否定的な投稿で、中には「○○女」などと人格を否定したりおとしめたりする投稿も。
議員は公職で、批判を受ける立場にありますが、女性議員の場合、SNSでひぼう中傷をより受けやすいという調査結果もあります。
なぜターゲットになるのか、議員や、実際にSNSでの書き込みを行っていた人を取材しました。どう対応したらいいか分からなかった
自身のルーツに加えて、女性であることで、ターゲットになりやすい現状があると考えています。
「党内で議論が行われている政策で、期数を重ねた男性議員の意見と同じような意見を私が言うとSNS上でたたかれることはよくあります。男性議員からも『英利さんが言うと中傷されるのはよくない』と言われます」
サタデーウオッチ9「女性議員へのひぼう中傷」
12月7日(土)午後10時まで配信ターゲットにされやすい女性議員
講演会がきっかけに ネットを超えた被害が
SNSでのひぼう中傷や偽情報の投稿にとどまらず、影響が現実の生活にまで及んだケースもあります。
地方都市の女性議員
「目に見えない大衆が一気に向かってきているような、これまでに感じたことのない恐怖でした」大量の下着が事務所に
さらに、買った覚えのない下着が大量に事務所に届き、事務所のまわりをうろつく見知らぬ人も現れました。
身の危険を感じ、精神的に追い詰められていったといいます。
「家族に何かあったらどうしようという不安はすごかったです。議員を辞めてしまいたいと思ったし、体調も崩して入院もしましたが、周囲に気付かれないように病院から議会に通いました。ここで私が辞めるとその人たちの成功体験になってしまうと思いました」
警察に相談した結果、脅迫を行った男性が特定され、投稿を行わないことを約束したといいます。
しかし、大量の下着を送りつけた人物の特定には至りませんでした。“終わることがないデマ”
女性議員へのひぼう中傷 どんな人が
どんな人が女性議員へのひぼう中傷を行うのか。
政治分野のジェンダーについての研究者で、女性議員へのサポートも行っている「Stand by Women」代表の浜田真里さんは、デマの拡散やひぼう中傷を行う人は『炎上タイプ』と『ストーカータイプ』の2つに分かれると分析しています。「炎上タイプ」は特定の投稿に対して反応し、議員の発言や活動を否定したり揶揄(やゆ)することが目的となっているタイプ。
「ストーカータイプ」は特定の女性議員の動きを追って、議員が投稿するたびにひぼう中傷の投稿を行うタイプで、長期にわたって行う傾向があるといいます。
「Stand by Women」 浜田真里代表
「海外の研究などでも男性議員に対しては政策の観点から批判されるということが一般的である一方、女性議員に対しては政策に対する批判ではなく、非常に個人的で特に性的なことばによる攻撃が多いとされています」デマ信じ“出るくいは打ってやれ”
男性
「最初に見た時は『こんな過去があったの?』とがく然としました。SNSでも同じような情報が繰り返し流れてくるので事実だとすり込まれていくというか、『たくさんの人が言っているんだから間違いない』と思いました。いま映像を見ると明らかな発言の切り取りとつぎはぎだし、大勢の人が言っているわけではなく一部の人がたくさん流しているというだけなのですが、当時は『これだけたくさんの人が塩村さんに抗議しているんだから正義の鉄ついを下さなければ』と思い込んでいました」男性は数年間にわたって、攻撃的な投稿を続けました。
「男性議員だったら“大勢の中のうちのひとり”ぐらいで気にもとめなかったと思います。女性議員はどうしても目立つから『出るくいは打ってやれ、二度と出ないように』って。女性が表舞台に出ていることへの妬みみたいな感情もありました」
その後、男性は塩村さんが情報を否定する姿を見て、信じ込んだ情報に違和感を抱き始めました。
事実ではないと知って事務所に名乗り出て謝罪。投稿をやめました。開示請求 あとに続く人のため
塩村さんは、投稿者を特定するためにプロバイダーなどへの情報開示請求や、明らかな虚偽の投稿に対する名誉毀損訴訟を、2020年から行ってきました。
開示請求したアカウントは100件以上にのぼっています。今後も開示請求や訴訟を通じ、ひぼう中傷が続く現状を変えていきたいと考えています。
「女性議員を増やしたいという思いがありますが、ひぼう中傷に直面すると『こんなの耐えられないよな』と心が折れそうになることもあるので、あとに続く人たちのためにも、デマやひぼう中傷は許されないということを理解してもらうためにも続けていかないといけないと思っています」
正しい情報発信の必要性を認識
さまざまな属性の人が議員として活動できるよう、対応について政党の中でも議論を進めていく必要性を感じているといいます。
有権者全体の不利益に
浜田代表
「攻撃やストーカー行為を受けたりすることを恐れて街頭演説の情報をSNSなどで発信しなくなったというケースや、中には政治家をやめるといった選択をする人もいます。活動の萎縮につながったり、政治のキャリアを継続することへの壁となったりすることは、議会内における多様な意見が失われてしまうということにつながり、議会での決定に直接的な影響を受ける私たち市民にとっても不利益だと言えます」そのうえで、議員側には対策として以下のような情報をアカウントに記載すべきだとアドバイスしています。
▽アカウントは議員個人ではなく事務所のスタッフなどが関わって運営していること
▽場合によっては弁護士が入って対応すること
▽ひぼう中傷を受けた場合にどのような対応を取るか浜田代表
「有権者側も、議員だからといって何を言っても許されるということはなく、投稿の先に生身の人間がいるというこの感覚を忘れないということは非常に重要です」国の対策は
“批判”と“ひぼう中傷”区別を
議員などは「公人」と考えられ、内容が真実であることが確認できた場合などには投稿した側は名誉毀損罪に問われないこともあります。
しかし社会通念上、投稿がひぼう中傷とみなされるケースはあります。
例えば、特定の女性議員について「要職に就く実績も能力も感じない」というのは批判とも受け止められますが「女性は感情的なので、政府の要職はできない」というのはひぼう中傷にあたる可能性が高いとしています。
山口准教授は、以下のような内容はひぼう中傷になるとして、投稿する前に一度立ち止まってほしいとしています。《9つの分類表》
(中傷の類型) (例)
1.脅迫・恐喝 「殺す」「死ね」
2.侮辱的・攻撃的 「バカ」「消えろ」
3.容姿・人格否定 「顔が気持ち悪い」
4.親族・組織への悪口「おまえの親はクズだ」
5.差別的な内容 「男・女のくせに」
6.不幸を望む・呪う 「車にひかれろ」
7.排除 「あなたの話は聞かない」
8.嘘の情報 「反社会的勢力とつながっている」
9.性的表現 「裸を見せろ」
(※山口准教授をはじめとする国際大学GLOCOMによるひぼう中傷の定義)(機動展開プロジェクト 金澤志江)