日本共産党を代表し憲法に対する考え方について意見を述べます。
昨年12月に産経新聞が行った世論調査で、石破内閣に今後取り組んで欲しい政策として、憲法改正を上げたのは3.3%に過ぎませんでした。最も多かったのは物価高対策で、子ども子育て支援、経済対策と続きます。改憲は決して政治の優先課題として求められていません。
憲法審査会は2007年安倍本総理が任期中の会見を目指す、そのための手続きが必要だ、時代にそぐわない条文の典型は9条などと述べる中、文字通り改憲ありきで強行成立させた、改憲手続き法に基づき設置されました。
憲法審査会は、改憲原案を審査提出する権限を持つ機関であり、ここでの議論は嫌応なく改憲案のすり合わせへと向えかねず、現に今日も取りまとめを求める意見が出されています。
国民が求めていない改憲のための憲法審査会は動かすべきでないことをまず指摘します。
今年は治安維持法の制定から100年です。天皇絶対の体制、国体の変革を求める主張や運動を極悪犯罪とし、君主性の廃止や侵略戦争反対を掲げた日本共産党を最大の弾圧対象にし、さらには労働組合や文化人知識人、宗教者など幅広く国民を監視し、自由と民主主義を奪い、反戦運動を取り締まり、国民を戦争に駆り立てました。最高刑を死刑に引き上げ、規制対象を大幅に広げたのは1928年の改正です。国会で審議未了となったにも関わらず、当時の内閣が緊急勅令で強引に成立させました。弾圧は圧倒的に強まり、小林多喜二が特高警察の拷問で虐殺されたのは1933年のことです。戦後治安維持法は廃止されましたが、政府は今日に至るまで当時適法に制定され、刑の執行も適法に行われたと開き直り、弾圧による犠牲者への謝罪も賠償も拒否しています。多喜二の死を心臓麻痺だったと嘘ぶいた警察当局の所業を、適法で適切だったとでも言うのでしょうか。
緊急勅令は大日本帝国憲法に定められた緊急事態条項の一つです。日本国憲法にいわゆる緊急事態条項がないのは、こうした過去の濫用による人権の圧殺と侵略戦争の痛苦の歴史を踏まえ、議会制民主主義の徹底を図るために他なりません。
憲法担当だった金森徳次郎大臣が憲法制定議会で述べたように、民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するためには、政府が一存で行いうる措置は極力防止しなければならない、だからこそ参議院の緊急集会が設けられました。加えて憲法54条3項は緊急集会で取られた措置は臨時のものであって、次の国会開会の後10日以内に衆議院の同意がない場合にはその効力を失うとしており、その性格はあくまで一時的暫定的です。これは権力の集中とその濫用を排除する上で重要です。
23年に当審査会で意見陳実した土井真一参考人が、緊急集会の制度には緊急事態から通常時へのレジリエンス復元力が高い、復元した後のチェック体制という合理性があると指摘したことを想起すべきです。
新型コロナの感染拡大、ロシアによるウクライナ侵略などを奇貨として、緊急時に国会の機能を維持すべき、そのために衆議員議員の任期延長が必要との議論が蔓延しています。国政選挙の適正な実施が、選挙の一体性が害されるほどの広範な地域でかつ長期に渡り困難であることが明らかな場合、などと言います。選挙の一体性とはいかにも曖昧な概念です。それほど広域に及ぶ自然災害を想定するなら、原発事故の危険性こそ直視すべきです。深刻な感染症蔓延を想定するなら、医療費削減ありきの姿勢を改めるべきです。武力攻撃による広半な影響を想定するなら、沖縄先島諸島から九州山口へ住民を避難させるなどという計画は机上の空論だと認めるべきです。
結局、選挙困難事態などという主張は本当の危機的事態をどう防ぐのかではなく、危機を煽れば改憲の突破口となるとの打算のもとに、改憲案をすり合わせようという画策にほかなりません。
昨年12月韓国の尹大統領が突然宣言した非常戒厳令は、一切の政治活動を禁止し出版、集会、結社の自由を大幅に制限するなど、極めて強権的に基本的人権を奪うものでした。この事態を受け日本でも憲法改正で緊急事態条項を整備すべきだという主張がなされましたが、驚くべき倒錯です。自民党が2012年にまとめた改憲草案は、総理大臣が緊急事態と宣言すれば、内閣が法律と同じ効力を持つ政令を制定できるとしています。国会から立法権限を奪い、主権の制限を可能とする仕組みであり、自民党はこの案を今も撤回していません。国会議員の任期延長も議会の多数派が緊急事態を口実に議員の地位にとまり、総理大臣を指名し、内閣を延明させ、一方で国民の選挙権を奪うものであり、権力の集中とその乱用の恐れという点では戒厳令と同様の危険が高いと言うべきです。韓国の教訓は緊急事態条項がないからこそ、独裁体制の確立や権力の乱用を防止しうるという点に見い出すべきです。
今必要なことは危機をことさら強調し緊急時に備えよと煽ることではありません。健康で文化的な生活を保障した25条を生かし、大幅な賃上げと年金の拡充、生活保護基準の大幅な引き上げや、消費税減税を個人の尊重を定めた13条、法の下の平等を定めた14条を踏まえ、選択的夫婦別姓を始めジェンダー平等の実現を、教育を受ける権利を保障した26条を生かし、給食費無償化や大学の学費値下げを、そして9条に基づき対話と協調、包摂的な平和外交を、すなわち憲法を変えるのではなく、憲法に基づく政治に変えることこそ求められていることを強調し、意見とします。