北海道電力が2年後の再稼働を目指す泊原子力発電所3号機。2025年度、早い時期での原子力規制委員会による審査の合格を目指しています。こうしたなか、いま一つの話題が投げかけられています。それは海底活断層の存在。安全基準の見直しも必要なのでは?と専門家から指摘が上がっているのです。一体何が起きているのか、取材しました。
やはり存在するのでは
泊原発の安全基準を見直すべきと指摘しているのは、北海道大学名誉教授の小野有五さん。地形学の専門家として10年来、泊原発の再稼働に向けた国による審査をウォッチし続け、並行して現地の地形の調査を行ってきました。
実はいま、地形学者たちの間で、これまでないとされてきた海底活断層が存在し、それも大変大きなものであるとの科学的知見が得られたというのです。
きっかけは能登半島地震。石川県の志賀町から珠洲市にかけておよそ80キロの範囲で海岸の隆起が確認され、最も高いところでは5メートル50センチにも達し、漁港の船泊まりが露になっているところもあります。こうした海底活断層が原因とみられる大規模な地形の変化が発生したことで、専門家たちによる研究が一気に進み始めたのです。
実は、この海底活断層、かねてからその存在が指摘されていました。しかし北海道電力が行った音波探査では、泊原発近くの海岸沿いに海底活断層の存在を示すデータは見つかっていませんでした。そのため、海底活断層の存在は否定した上で、「安全側の判断」として沖合に長さ22キロの「孤立した短い」断層を仮定するという異例の方法で安全対策が考えられてきたのです。
「地震で隆起した特徴のある海岸のそばには、海底活断層が存在する」。このふたつの関連性が、能登半島地震で起きた海岸の隆起によって裏付けられたと小野さんは考えています。
(活断層が)あることが前から指摘されていたが、それが証明されたというと言いすぎかもしれないけれど、少なくとも能登半島では同じようなことが起きたから、ここも活断層であることをやっぱり少なくとも考慮しなければいけないでしょう
もう“見落とし”できない
名古屋大学教授の鈴木康弘さんは、30年前の阪神淡路大震災以来、活断層についての研究を続けてきました。マグニチュード7を超える大きな地震であれば、活断層を見つけることで事前に被害を想定し、備えができるようになったといいます。しかしマグニチュードは7・8を記録した能登半島地震では、これだけ大きな規模にも関わらず、活断層の存在が見落とされてしまったことを重く受け止めています。
問題はやはり海のなか、特に海の中でも沿岸に近いところの断層を見落としてしまっている
能登半島地震では、海岸沿いの海底活断層がずれ動いたとみられています。鈴木さんによると海岸沿いのエリアは、海底活断層の存在を確かめることが難しいことから、「活断層の空白地」と呼ばれてきたといいます。その理由は、国の調査方法に限界があったからです。これまで国は、主に船から海底に向けて音波を発し、その反射のデータから海底活断層を探す“音波探査”という方法をとってきました。しかしこの方法を海岸沿いで行うことは難しく、そのためほとんどの海底活断層を見つけることができないまま今に至っていると考えられているのです。能登半島地震では、最長150キロにもおよぶ規模で海底活断層が動いたとみられています。しかし、国が防災のために公表している活断層図に、この海底活断層は掲載されていませんでした。
鈴木さんは、能登半島地震で海岸沿いの海底活断層が大きな被害をもたらした以上、 “音波探査のデータがない”という理由であいまいなまま放置することは出来ないと考えています。そうした中、大きな手掛かりと考えているのが、“地震で隆起した特徴のある地形の海岸”を見つけることだと指摘します。
想定を大きく上回る地震も
小野さんによると、実はこうした特徴のある地形の海岸は、泊原発の近くにも存在しているとのこと。そしてその存在は国も把握しており、実際に地震で盛り上がってできた地形である可能性を否定していないというのです。つまり、今後、泊原発の近辺で大規模な地震が起これば、能登半島と同じような海岸の隆起が起きかねないと小野さんは指摘します。
これまで北電は、こうした海岸の地形についてその存在は認めつつも、海底活断層の存在については見解を明示せず、代わりに「孤立した短い」断層による地震のリスクがあると仮定して、安全対策を検討してきました。
この安全対策が十分なものと言えるのか。小野さんは、泊原発のある積丹半島では、西岸から北岸まで取り囲むように地震で隆起した特徴のある海岸が連なっているといいます。そのすぐそばには海底活断層がある可能性が極めて高く、ひとたび大きな地震が起これば、能登半島のような大規模な地形の変化が発生しかねないと指摘します。
さらに、従来の音波探査に代わり、ここ10年ほどで使われるようになってきたビーム測量という方法で調べたところ、泊原発付近の海岸沿いには長さ70キロにも及ぶ海底活断層が認められるといいます。もし地震が起こった場合、その規模はマグニチュードは7・8に及ぶと想定され、これは現在想定されているマグニチュード7・03を大きく上回ることから、小野さんは泊原発の安全対策は見直しが必要になるというのです。
ここは30キロくらいは一応ほくでんも認めたわけだけど、実際には全体で70キロ以上ある活断層なわけですよね、これを考慮するといまの耐震設計ではそもそも間に合わないということですよね
“新知見”は受け止められるか
原発再稼働の安全審査を担う原子力規制委員会。その前委員で当時唯一の地質学者だった石渡明さん。新たな科学的知見は積極的に取り込んでいくべきといいます。
断層の長さ何キロにするかは結構難しい問題。我々としてはいろんなデータを見て納得できるところで、この程度でしょうということで、落としどころを探っている。もちろん科学は進歩している、その意味で新しい委員の方が判断されればそういうこと(=改めて評価すること)もあるかもしれません
こうした事態に対し北電は、各機関の研究・調査結果に耳を傾け活断層の調査や検討を行っているとしたうえで「引き続き新たな知見が得られれば適切に対応していく」とコメントしています。
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日本海側の海底活断層をめぐっては、国の地震調査研究推進本部が長期評価をまとめています。3年前には、九州地域と中国地方北方沖。去年8月には、兵庫県北方沖から新潟県上越地方沖にかけて海底活断層の存在が、それぞれ公表されています。この中では、該当地域に存在する原発が想定している活断層の規模に比べ大きいケースが出ています。
こうしたなか、石川県にある志賀原発を有する北陸電力は、近くにある海底活断層はこれまでの倍近い規模で存在すると考えを改め、安全対策を再検討する方針を示しています。泊原発では海底活断層に関する新たな知見が、どのように受け止められていくのでしょうか。そして安全対策の見直しは行われるのでしょうか。今後も取材を続け、みなさんに最新情報をお伝えしていきます。






