ippo2011

心のたねを言の葉として

樹木希林の言葉  映画『あん』

樹木希林の言葉  映画『あん』(2017年 河瀨直美)

 

どんな役でも同じ人間という体をしている以上は共通する部分が必ずある

 

 施設にいる方にもお会いして、「こんにちは」と握手しようとすると指がない方もいました。でもみなさん、過去を乗り越えてとても明るく生きていらっしゃるんですよね。そういうことを七十二歳で初めて知ったわけですから、無知って残酷なことだなと思いました。自分を恥じ、罪深さを感じましたね。 
 徳江を演じるのは難しかったかというと、そんなことはありません。この世の中で自由に生きているように見える人が、ほんとうに自由かというと、やっぱりそれぞれ自分や家族のなかに重たいものを抱えていたりするから。それが人間だから。どんな役でも同じ人間という体をしている以上は共通する部分が必ずあるんです。
 たとえ殺人犯の役であっても、なにかその人が生きるだけの道理があるわけですよ。それを上から目線でかわいそうな人だとか、残酷な人だとか思って演じるのではなくて、自分に重ねるように、すっと役に入っていく。自分をまったくなくして別人のように役に挑む人もいるけど、わたしはいつもそこに自分がいるのね。
(「表紙の人 樹木希林」2015年7月)