ippo2011

心のたねを言の葉として

生きる      谷川俊太郎

生きる      谷川俊太郎
 
  生きているということ
 いま生きているということ
 それはのどがかわくということ
 木もれ陽がまぶしいということ
 ふっと或るメロディを思い出すということ
 くしゃみすること
 あなたと手をつなぐこと
 生きているということ
 いま生きているということ
 それはミニスカート
 それはピカソ
 それはアルプス
 すべての美しいものに出会うということ
 そして
 かくされた悪を注意深くこばむこと
 生きているということ
 いま生きているということ
 泣けるということ
 笑えるということ
 怒れるということ
 自由ということ
 生きているということ
 いま生きているということ
 いま遠くで犬が吠えるということ
 いま地球が廻っているということ
 いまどこかで産声があがるということ
 いまどこかで兵士が傷つくということ
 いまぶらんこがゆれているということ
 いまいまが過ぎてゆくこと
 生きているということ
 いま生きているということ
 鳥ははばたくということ
 海はとどろくということ
 かたつむりははうということ
 人は愛するということ
 あなたの手のぬくみ
 いのちということ