「虎に翼」最終週 寅子と美雪
美雪「先生はどうしてだと思います?どうして人を殺しちゃいけないのか」
寅子「今の質問のこと おばあ様から聞いた?」
美雪「え?もしかして母も同じ質問を?
そうなんだ…お母さんも同じことを…」
寅子「奪われた命は元に戻せない。死んだ相手とは言葉を交わすことも触れ合うことも何かを共有することも永久にできない。だから人は生きることに尊さを感じて人を殺してはいけないことを本能で理解している。それが長い間考えてきた私なりの答え。理由が分からないからやっていいじゃなくて分からないからこそやらない。奪う側にならない努力をすべきだと思う」
美雪「フフフ…フフッ…そんな乱暴な答えで母は納得しますかね?」
寅子「美雪さん 私は今あなたの質問に答えています。お母さんの話はしていません。私の話を聞いてあなたはどう思った?」
(美雪がナイフを取り出す)
美雪「母の手帳をご覧になったでしょう?母も娘もほかの子たちとは違う。異質で手に負えない。救うに値しない存在だと」
寅子「逆」
美雪「え?」
寅子「全く逆!あなたもお母さんも確かに特別。でもそれは全ての子どもたちに言えること。あなたたちは異質でも手に負えない子でもない。手帳を読んで気づいた。私はあなたのお母さんを 美佐江さんを恐ろしい存在と勝手に思ってしまった。そのことが過ちだった。美佐江さんはとても頭はよかったけれど どこにでもいる女の子だったと思う」
美雪「どこにでもいる女の子が人を支配して操ろうなんて思いますか?」
寅子「でももう真実は分からない。なぜなら私たちは美佐江さんを永遠に失ってしまったから。もっと話をすべきだった。
彼女が分からないなら黙って寄り添うべきだった…ごめんなさい」
音羽「そんなのきれい事すぎます。そこまで佐田判事が背負うことじゃない」
寅子「そう。あの時私はそう思って線を引いた。だからね美雪さん 私もうこんなこと繰り返したくない。手帳に残された言葉の意味やお母さんをかばう理由を見い出そうとして傷を負わなくていい。お母さんのこと嫌いでも好きでもいい。親にとらわれ、縛られ続ける必要はないの。どんなあなたでいたいか考えてほしいの」
美雪「つまらない。そんなのつまらない。
そんなのありきたり!そんな私じゃ駄目なんです」
寅子「どんなあなたでも 私はなんだっていい!どんなあなたでも どんなありきたりな話でも聞くわ。だから…話しましょう。何度でも」
(美雪はナイフを投げ捨てて部屋を出ていく)
音羽「美雪さん…美雪さん!」
寅子「音羽さん 今日はもういいわ」
(ナレーション:寅子は美雪を試験観察とし、民間の施設でしばらく生活させることになりました)