バリ島で「世界水フォーラム」水資源適切管理の協力を呼びかけ
2024年5月21日 NHK
水をめぐる世界のさまざまな問題を話し合う「世界水フォーラム」がインドネシアのバリ島で開かれ、ジョコ大統領は水不足は世界の経済成長を妨げ、戦争の引き金にもなるとして、水資源の適切な管理に向けた協力を呼びかけました。「世界水フォーラム」は水をめぐるさまざまな問題を話し合う3年に1度の国際会議で、10回目となる今回はインドネシアのバリ島で開かれました。
20日は各国や国際機関の代表が参加するハイレベル会議が開かれ、冒頭でインドネシアのジョコ大統領は「水不足は2050年までに世界の経済成長を最大6%妨げると推計されているほか、戦争の引き金や災害の原因にもなりうる」と述べ、危機感を示しました。
その上で「水は単なる自然の産物ではなく私たちの協力によって生み出されるものだ。水を守ることは私たちの連帯責任だ」と述べ、水資源の適切な管理に向けた協力を呼びかけました。
関係者などによりますとハイレベル会議では、発展途上国などでの清潔な水へのアクセスを支援する基金の設立や、国境をまたがる川や湖をめぐって国どうしの争いが起きるのを国際法に基づいて防ぐ外交の強化についても確認したとしています。
「世界水フォーラム」は21日も閣僚級の会議が行われ、各国が協力して取り組むべき課題などについて閣僚宣言をまとめる見込みです。
国連 “気候変動によって水不足が悪化”
世界の人口増加にともなって、水の需要が供給を上回る可能性があるとして、国連は水を限りある資源として有効活用するよう呼びかけています。ユネスコ=国連教育科学文化機関がことし3月に発表した報告書によりますと、おととしには世界の人口のおよそ半分が、少なくとも一定期間深刻な水不足に直面したとしているほか、22億人が安全な飲み水を利用できずにいたとしています。
また国連は、気候変動によって水不足が悪化しているとして、2002年から2021年までの間に干ばつによって14億人以上が影響を受け、2万1000人近くが死亡したとしています。
一方、洪水のリスクにさらされる人も2050年までに現在の水準の12億人から16億人にまで増えるとされています。
さらに複数の国家にまたがる川や湖などの水資源が国どうしの対立の引き金になることもあります。
このうちナイル川をめぐっては、上流のエチオピアがダムを建設したことで、水源をナイル川に依存する下流のエジプトとスーダンが水不足につながると反発して対立が深まっています。
また紛争地で水の供給を止めることなどが「武器」として使われるおそれについても国連は警鐘を鳴らしています。
イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が続くガザ地区では、イスラエルが水道網の稼働に必要な燃料の供給を制限したことなどにより安全な飲み水の確保が困難になっていて、不衛生な水が原因で病気が広がるなど人道危機に拍車をかけています。
インドネシアでは「雨水を有効活用」試みも
インドネシアのジャワ島中部に住むスリ・ワユニンシさんは、雨季に洪水が相次ぐ一方で、乾季には水不足となることから、雨水を有効活用できないかと思うようになり、12年前から雨水を貯蔵できるタンクを自宅に設置し始めました。東南アジアでは雨水をためて洗濯などに利用している地域もありますが、スリさんは地元の大学などの技術を参考にろ過装置を作って、飲み水や料理にも使えるようにしました。
さらにタンクの数も増やしていまでは2万リットルの水を貯蔵して近所の人たちに無料で提供しています。
また毎週「雨水学校」と名づけた講座を開き、インドネシア各地から集まった大学生や近所の人などに水資源の貴重さや雨水の活用方法について教えています。
スリさんは「世界水フォーラム」の関連イベントでもみずからの活動を紹介する展示を行う予定で、インドネシア国外にも活動を広げていきたいと期待しています。
スリさんは「私たちの身近にある水の危機の解決策を知る必要がある。水の問題を解決するために一緒に取り組めるあらゆる関係者と連携を深めたい」と話していました。
世界各地で干ばつの被害相次ぐ
世界各地では、気候変動の影響とみられる干ばつの被害が相次いでいます。このうち記録的な干ばつに見舞われたスペイン北東部のカタルーニャ州でことし1月に撮影された映像では貯水池の水位が下がり、干上がった地面のうえを人が歩いている様子が確認できます。
また、10年余りにわたって干ばつが続いているとされているチリでは、ことし3月中部のコキンボ州にある貯水池が完全に干上がり、飲み水や家畜を世話するための水を手に入れることが難しくなったということです。
さらに、メキシコの首都メキシコシティでは、5月干ばつが続く中で先住民の人たちが歌を歌ったり楽器を演奏したりして雨乞いの儀式を行っていました。
フォーラム参加の専門家 ”日本の知識や技術 共有を”
今回の「世界水フォーラム」に参加した「土木研究所」の小池俊雄 水災害・リスクマネジメント国際センター長は、気候変動にともなって、世界各地で渇水や洪水の頻度が以前と比べて増していると指摘しています。また、地球には国境をまたぐ河川が多く存在するとして、「国と国どうしの協力、さらに国のなかでも地域間の協力が重要になる」と述べ、国境や地域の境界を越えた協力の必要性を訴えました。
一方、世界各地で水不足が相次ぐなか、日本が果たせる役割について小池センター長は、「気候変動に関する予測能力や国の法的整備、それに地域の力などもずいぶん上がってきているので世界の人たちと共有すべきだ」と述べ、日本が持つ知識や技術を国際社会とも率先して共有し、連携を深めるべきだと指摘しました。