ippo2011

心のたねを言の葉として

中学校サッカー部の指導について   一歩

中学校サッカー部の指導について   一歩


「愛球人さんへの返事」


 愛球人さんから、と質問をいただきました。しかしながら、ほとんどの中学校の部活のレベルは、愛球人さんの質問に答えられるようなものではありません。愛球人さんの質問の答えにはならないかと思いますが、現状を少しまとめます。
 中学校のサッカー部の指導者となって30年、強いチームも、弱いチームもありました。全国大会出場などという華やかな戦績はありません。U-15で地区選抜になった選手は何人かいますが、Jリーガーになった選手はいません。高度な技術を持ち、戦術を理解しながら創造性あるプレーを見せてくれる選手などほんの一握りです。夢はJリーグ選手と多くの子どもたちはいいますが、全市レベルの大会に進むことさへままならず、予選で敗退していくのが子どもたちのほとんどです。
 私は、全くの素人だった選手が技術的に向上し、サッカーに夢中になっている姿を見るとうれしくなります。今私が教えているチームは、わずか12人という部員数です。その中で小学校からの経験者は6人ですから、ほとんど勝つことは難しい弱小チームです。しかし、そんなチームがたまに点を取ったり、いい内容のゲームをすれば、これがまたこのうえない喜びとなります。



 中学校の部活動ですから、いろんな子どもがいます。小学校時代にクラブチームで勝利第一のサッカーがいやになって部活動に入った子もいれば、運動は苦手でも体力の向上を願って入部してくる子もいます。学校教育の一環として位置づけられている部活動ですが、基本的には任意の団体です。指導者も基本的にはボランティアです。私は、普段の日はほとんど部活につくことはできません。授業を終えたあと、放課後にはほとんど会議や委員会活動などがあり、その後は、校務の処理、学級事務、授業の準備など自分の仕事があるからです。熱心な指導者は、自分の仕事を後回しにして、部活動にまずつきます。そんな人は、部活動が終わった後の夜7時すぎから授業の準備などを始めるので学校を出るのは夜の9時を回ることになります。私は体をこわしてから、自分の仕事を先にするようになりました。夜の7時には学校を出るようにしています。練習につきたいのにつけない、授業も部活も中途半端、といったジレンマを多くの教員が抱えていると思います。
 そんな私ですから、部活動につけるのは土曜、日曜などの授業のない日です。指導の中身は多岐にわたります。ゴールデンエイジを抜けて基本の習得が大切な時期にさしかかっていること、相手が受けやすいパスを出すこと、成長期の基礎体力向上のトレーニング、華麗なボレーシュートより確実なインサイドキックのシュート、チームのために走ること、ラインディフェンスとスイーパーシステムの違い、第3の動き、体の向き、勝ってもダメな試合、負けても内容のある試合、人として成長すること、勝とうという強い意志、サッカーを楽しむことなどなど。愛球人さんご指摘の戦術面の指導はサッカーで教えることの一つですが、それは他の指導項目と有機的につながって生きるものだと考えています。



 私はトレセンのスタッフのような指導はできませんが、サッカーの基本、楽しさ、厳しさ、体を動かすことの喜び、仲間がいることの大切さを知ってほしいと思ってやってきました。愛球人さんの質問に答えられるような高度なサッカーとは程遠いものですが、たとえ弱いチームでもサッカーの楽しさを感じられる毎日であってほしいと思っています。
 しかしそんな私でも、子どもたちの全体的なサッカーの技術、戦術は確実に上昇していると実感しています。キックandラッシュのサッカーチームが全市を勝ち抜いてしまうこともあったような時代から考えると、今の子どもたちのサッカーのレベルは雲泥の差です。ドーハの悲劇から16年、日本代表が世界との差を縮めた試合を見せてくれました。サッカーのこのようなレベルアップに、日本サッカー協会の審判員育成システムの貢献は大きいと思っています。
 この30年の間に、芝のグランドも増えました。私のいる制令指定都市でも、人工芝を含めれば、10面は超える施設が整ってきました。しかし、イギリスでは、ロンドン市だけで芝のグランドが100面あると聞いたことがあります。日本のサッカー文化はまだまだ後進国です。



 私はサッカーが好きなので、こんなにも永く部活動の指導者を続けてこられたと思っていますが、私自身も45歳以上のシニアのサッカーチームを作ってたまに遊んでいます。一方、35歳以上のカテゴリーにも兄弟チームがありますが、そこにはかつての教え子が中心となってやっています。
 シニアのサッカーが本格的になったのもこの10年のことです。私は、社会体育としてスポーツのすそ野がさらに広がっていくことを願っています。部活動中心のスポーツには限界があります。どうしても3年間で閉じられてしまう制度、人的、物的、金銭的制約など課題はたくさんあります。地域に根ざした、社会体育の拡充に、国や自治体の支援は欠かせません。アマチュアからセミプロまでつながっていく審判のシステムを作ることもその中に入ってくると思います。