イスラエルの首相、国連演説でパレスチナ承認を非難 数十人が退席するなか
2025年9月27日
トム・ベネット記者(エルサレム)
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は26日、国連総会で行った強硬姿勢の演説の中で、複数の西側諸国によるパレスチナ国家の承認を非難した。
ネタニヤフ首相は、これらの承認の動きを「恥の証」と呼び、「ユダヤ人を殺せば報われるというメッセージを送っている」と述べた。
ネタニヤフ首相が演壇に立つと、数十人の政府関係者や外交官が退席し、会場の大部分が空席となった。会場の外では、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区での戦争に抗議するデモ参加者が、タイムズ・スクエアに集まった。
イスラエルは、ガザでの軍事行動をめぐって国際的な強い圧力を受けている。先にはイギリス、フランス、カナダ、オーストラリアなどの国々がパレスチナ国家を承認した。
ネタニヤフ首相は演説の冒頭で、「The Curse(呪い)」とラベル付けされた地図を掲げ、中東全域に広がるイランの代理勢力を示していると説明した。
その後、ネタニヤフ首相は、過去1年間にイスラエルが行った軍事作戦について言及し、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ、イエメンの反政府勢力フーシ派、ガザ地区のイスラム組織ハマス、そしてイランに対する攻撃を強調した。
また、アメリカが6月にイランのフォルド核施設を爆撃したことについて、ドナルド・トランプ米大統領に感謝を表明した。
さらに、2023年10月7日にハマスがイスラエルを襲撃した事件と、2001年9月11日に世界貿易センタービルや国防総省が襲われた同時多発攻撃との類似性を指摘した。
そのうえでネタニヤフ氏は、イランと関係のある組織が使う「アメリカに死を」というスローガンに言及し、イスラエルとアメリカは「同じ敵」と戦っていると述べた。
スピーカーでガザに演説をライブ配信
ネタニヤフ氏は、イスラエルがパレスチナ国家の存在を認めることはないとの立場を改めて示し、この立場がイスラエル国民の大多数に支持されていると述べた。
また、国連の調査委員会がイスラエルによるガザでのジェノサイド(集団殺害)を認定したことに反対し、この非難は「根拠のないものだ」と主張した。
イスラエルがガザへの支援物資の搬入量を意図的に制限しているとする複数の国連機関の声明も、首相は退けた。8月には国連の支援を受けた機関が、ガザ市で飢饉(ききん)が発生していることを確認している。
演説に先立ち、ネタニヤフ氏の事務所はイスラエル軍に、ガザとの境界フェンス付近のトラックに大型スピーカーを設置し、首相の演説をガザ全域に生中継するよう命じた。
ネタニヤフ氏はさらに、イスラエルの情報機関がガザ住民のスマートフォンをハッキングし、演説を直接配信する予定だと主張した。BBCのガザ現地の情報筋は、自分たちの携帯電話に影響は出ていないと述べている。
ネタニヤフ氏は、こうした措置の目的は、ガザに拘束されているイスラエル人の人質にメッセージを届けることだと述べた。
「私たちの勇敢な英雄たちへ」と、ネタニヤフ首相は演壇で読み上げた。「こちらは国連から生中継で話しているネタニヤフ首相です。私たちは皆さんを忘れていません。1秒たりともです。イスラエル国民は皆さんと共にある。私たちは決してひるまず、皆さん全員を祖国に連れ戻すまで休むことはありません」
現在、ガザには48人の人質が残されており、そのうち20人が生存しているとみられている。
ガザ在住のファディ氏は、BBCワールドサービスの取材に対し、「包囲された市民がテントの中で強制的に演説を聞かされることで、彼が得るものは何か。住民をさらに辱める以外に何があるのか」と話した。
ネタニヤフ首相は演説の後半では、イスラエルの周辺諸国について語った。シリアとの間で緊張緩和合意が近づいていると述べたほか、レバノンに対し、ヒズボラの武装解除に向けた取り組みを強化するよう呼びかけた。
演説を受けて、イスラエル国内では直ちに批判の声が上がった。野党指導者のヤイル・ラピド氏は、「きょう目にしたのは、疲れ果て、泣き言を言うイスラエル首相の姿だった。演説は使い古された演出であふれていた」と、ソーシャルメディア「X」に投稿した。
ラピド氏はさらに、「外交的な津波を止めるどころか、ネタニヤフは今日、イスラエル国家の状況をさらに悪化させた」と書き込んだ。
イスラエル民主党のヤイル・ゴラン党首は、ネタニヤフ氏の演説は「被害者意識、偽善、そして人質の苦しみや戦闘員の犠牲に対する完全な無理解しか示していない」と述べた。
また、スピーカーによる演説の強制放送を「無効で、子どもじみており、狂気の沙汰だ」と非難し、「プロパガンダ・ショー」と断じた。
この前日には、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長が演説を行っている。アッバス議長は、イスラエルとパレスチナの和平計画の実行のため、世界の指導者らと協力する準備があると述べた。
ネタニヤフ首相の演説が終了した直後、トランプ米大統領は記者団に対し、「ガザについての合意があると思う」と語った。詳細は明かさなかったが、停戦合意が近づいているとの憶測が高まっている。
外国の報道機関は、戦争が始まってから約2年間、イスラエルによってガザ地区への独自の立ち入りを禁止されていたため、双方の主張を検証することが困難な状況となっている。一部の記者は、イスラエル国防軍(IDF)の管理下でガザの同行取材を行っている。
イスラエル軍は、2023年10月7日にハマスがイスラエル南部を攻撃したことを受けて、ガザでの軍事作戦を開始した。この南部では約1200人が殺され、251人が人質として拘束された。
ハマスが運営するガザ地区の保健省によると、それ以降、イスラエルの攻撃によって少なくとも6万5549人が殺されている。
(英語記事 Netanyahu attacks Palestinian recognition as dozens walk out of UN speech)