2024/9/10 東京新聞連載⑤「規模ありき」拭えぬ疑念
5年間で防衛費を総額43兆円にまで増やす政府の閣議決定から2年近くたつ。本当に必要な予算を積み上げたのか―。その具体的な根拠は、いまだ示されていない。◆必要な予算積み上げたのか?…野党が追及
「防衛省にずっとお願いしているんです。一体いつになったら43兆円の内訳を国民に説明するんですか」国会では増額が示された当初から、43兆円には「規模ありき」の疑念がつきまとってきた。◆バイデン大統領に約束した 「相当な増額」
防衛費増額が決まる半年前の2022年5月の日米首脳会談で、岸田文雄首相はバイデン大統領に対し、防衛予算の「相当の増額」を約束。直後の参院選で自民党は、国内総生産(GDP)比1%程度に抑えてきた防衛予算をGDP比2%に引き上げることを選挙公約に掲げていた。5年で43兆円にまで増やすと、まさに防衛費はGDP比2%規模になる。◆ようやく示された資料は…すでに公表済みの内容
43兆円の増額が示された直後の2023年の通常国会。防衛費の財源を確保するための法案審議に当たり、野党側は、43兆円の詳細な内訳を示すよう再三にわたって求めた。これに対し、政府側は「極めて現実的なシミュレーションを行った上で、必要な内容を積み上げた」との説明に終始。通常国会の終盤の2023年5月になって、防衛省はようやく43兆円の内訳を示した一覧資料を提出した。しかし、資料はA4判のペーパー5枚だけ。大半が数千億円単位で、すでに公表されている大ざっぱな内容を並べたものだった。中には「装備品等の維持整備費 陸自1.5兆円、海自3.8兆円、空自3.2兆円」という記載まであった。◆自民国防族「われわれの仕事は予算を大きくしていくこと」
野党は「国民からすれば請求書の中身が分からぬまま代金だけ押し付けられた格好になっている」と批判。結局、43兆円の妥当性を検証できないまま国会が閉じた。その後、防衛省からは数枚の追加資料が示されたが、具体的な事業内容を把握するには程遠い。自民党の国防部会長経験者は、こう言い切る。「われわれの仕事は防衛予算を大きくしていくことだ。43兆円の内訳に興味はない」◆今年5月になっても「職員がエクセルファイルを整理中」
2022年7月まで防衛省の事務方トップの事務次官を務めた島田和久氏は、取材に「GDP比2%は同盟国の米国を含むNATO諸国が目安として合意しており、国際的な標準として意味がある。かつて日本独自で定めた防衛費抑制のための『1%枠』とは性質が異なる」と言う。その上で、島田氏は「『どうせ防衛予算は増えない』とのあきらめが以前は省内にあったが、それでは国は守れない。数値目標とは関係なく、2021年頃から時間をかけて必要な事業を積み上げた」と強調する。必要な予算を積み上げたのに、いまだに中身を示せないのはなぜか。木原防衛相は「積み上げられた事業は数万件に上り、それらをまとめたエクセルファイルを確認している」と明言。いまだに詳しい内訳を示せないのは「ひとつの事業でも複数の項目にまたがるケースがあり、職員が整理している最中のためだ」と、今年5月の国会で答えている。◆精緻な積み上げ「初めからなかったのでは」
43兆円の根拠を追及してきた小西議員は、「そもそも初めから精緻な積み上げなんてなかったんじゃないか。国民や国会への説明責任を果たさず、数字ありきで5年先まで予算を確保できるなら財政民主主義が破壊される」と指摘する。防衛費の内訳について尋ねていたとき、言葉に窮して「43兆円と言うが実は3割くらい上乗せして要求した部分もある」とこぼした。まずいと思ったのか、隣にいた同僚がすぐ発言を制した。長妻議員は「日本を守るために必要と言われて納得している人も多いと思う。しかし内実は、事業の積み上げが終わらないまま閣議決定されたのが防衛力整備計画ではないか」といぶかしむ。◆1300億円使い切れず…財務省幹部「さすがに多すぎる」
今年7月、2023年度の防衛費のうち、予算計上したものの使い切れなかった「不用額」が1300億円程度に上ることが判明した。2007年度以降では約1800億円だった2011年度に次ぐ規模だ。財務省幹部は「新たな財源が必要だとして、決算剰余金や歳出改革で年間数千億円をひねり出している。それなのにこれほどの不用額は、さすがに多すぎる」と注文を付ける。◆情報公開請求1ヵ月、防衛省から届いたのは…
◇8月30日に公表された防衛省の2025年度予算案の概算要求額は、過去最大の8兆5千億円に達した。川重による接待疑惑は、防衛特需に沸く裏で官民が癒着を深め、不正へと発展しかねない危うさを突き付ける。私たちの税金は適切に執行されているのか。43兆円へと肥大化する防衛費を6回にわたって検証する。(この連載は加藤豊大が担当します)